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ユウ☆キ☆オウ外伝-アダーズ・ストーリー-

 ※注意
 この小説は私達がニコニコ動画に投稿しているMUGENストーリー兼架空デュエルの「ユウ☆キ☆オウ」の番外編となります。
 なので、動画本編を観ていない方には面白くないと思います。
 観ている人にとっても面白くない可能性は大ですが。


   ユウ☆キ☆オウ外伝 -アダーズ・ストーリー-

 俺の記憶を遡ると、二つの誕生に行き当たる。
 片方は祝福に満ちた素晴らしく心地よいものだったが、もう片方は憎悪と怨恨に満ちた痛しいものだった。

 今のハートランドは知らないが、前王は暗君と言って差し支えなかったのは事実だ。
 過度な身分制度を強い、政を怠り、気に入らないことがあると民に当たり散らすような、そんな王だった。
 俺とあの男はそんな王のいる国で最下層の存在として生まれ、共に育った。
 あの男は俺よりも年上で、頼り甲斐があり、俺はいつもあの男のすることこそ正しいと思い、一緒に過ごしてきた。
 あの男が課せられた仕事を放棄すれば、俺も放棄し、あの男が笑えば、俺も笑った。
 すごく滑稽に思えるだろうが、子供の時分は誰だろうとそんなものではないだろうか。
 だが、これより先は滑稽という言葉が相応しい。

 俺の盲信は、成長して尚も変わらなかったのだ。

 遺跡に行こう。
 あの男がそう言い出したのは、忘れもしない凍えるような冬の日だった。
 ハートランドには古びた遺跡が重要文化遺産として幾つか残っており、中には調査中のものもあれば調査が終わり最低限の警備しかしていない遺跡もあり、更には文化遺産としてすら認められず放置されたような遺跡もある。
 あの男が行こうといった遺跡は更に異例であり、調査が一度打ち切られ、再開の目処がまだ立っていない遺跡だった。
 理由は知らないが、警備体制も万全であり、楽に忍び込める場所ではなかった。
 だが俺達が惹かれたのは、自由が手に入るかも知れなかったからだ。
 調査中の遺跡にまだ眠る財宝。
 それさえ手に入れられれば、自分達はきっと自由になれる。
 そんな一心であるかどうかも疑わしい、いや、むしろないと断言すらできるような宝を求めて遺跡に侵入したのだった。
 忍びこむのは案外楽だった。
 あの男は、人を使うのが上手な人間だったのだ。
 他の人間を騙し、警備員を襲わせたのである。
 そんな騒動が起きている隙に俺達は二人で忍び込んだ。
 中にはまだ警備員が残っていたが、俺達にかかれば障害にもならない。
 殴って終わり、そんな連中だった。
 そうして奥まで進むと、やけに開けた場所に出た。
 壁中に文字やら絵やらが刻まれており、正直、俺は怖くてたまらなかった。
 だがあの男は壁を食い入るように見つめており、時折壁を触って何かを探していた。
 しばらくそうしていると、あの男は壁から離れ、こちらに向き直った。
 どうやら、書いてあることは分からないものの、これが何かの歴史について綴っているものだということは分かったらしい。
 そして、壁は一部叩き心地が違う為、おそらく壁の先に別の通路があるのだろうということだった。
 調査が難航している原因の一つはこの壁を壊しておくに進もうにも、この壁もまた貴重な文献の一部であり、何とか別の道や入り口がないか探っていたのだろう。
 遺跡は半分以上地面や岩に埋もれており、別の入口を探すためには地面を掘らなければいけないが、その過程で遺跡を傷つけたり地盤沈下を引き起こす可能性があるためお偉方は頭を捻らせているのだろう、あの男は丁寧に説明しながらも壁を蹴り壊し始めた。
 偉そうに論説をふるってみても、所詮俺達は学のない奴隷。
 貴重な遺跡より、目先の宝だ。
 やがて遺跡の壁は崩れ、俺達はその先に現れた道を辿り、先へ先へと進んでいく。
 道はどんどんと先細るが、廊下の広さは変わらない。
 即ち、穴だ。両端に長い長い穴ができているのだ。
 最初は溝程度のものだったが、ある程度進んだ今となっては足場の幅の方が両端の穴の幅より狭くなっていることだろう。
 足を滑らせば、底の知れぬ奈落へと消える事になるだろう。
 あの男は悠々と、俺はおっかなびっくり進んでいくと、行き止まりに辿り着く。
 だが、一番奥にある壁画には、六枚のカードが嵌めこまれていた。
 カードにすら触らせてもらえぬ最下層の身とは言え、それらのカードの希少価値は一瞬で理解できた。
 そして、俺はすっかりとそのカードの美しさに心奪われていたのだった。
 俺はカードを一枚一枚壁画から抜き取っているあの男の肩に手を置き、自分でも笑ってしまうほどの早口で叫んだ。
 俺もここまで来たんだ。三枚……いや、せめて二枚はくれ。
 この時、いつもあの男の言いなりだった俺に、初めて自分自身の欲が、自我が生まれたのかもしれない。
 だが、あの男は振り向くと、薄ら笑いを浮かべたままカードを持っていない方の手で俺を突き飛ばした。
 俺は体制を崩し、穴へと落ちる。
 それを静かに見つめるあの男の表情は今でも思い出せる。
 笑っていたのだ、突き飛ばした時の表情のまま。
 俺はカードを二枚まで譲歩したが、あの男は俺なんかよりもあのカードに魅せられてしまったらしい。
 俺に、一枚も譲りたくないんだとよ。

 俺の意識が戻ると、そこは冷たい場所だった。
 凍えそうだった、身も心も。
 骨が折れているのか身体は全く動かず、休むことなく床を濡らす温かな液体だけが唯一の救いだった。
 喉が渇けばその液体を舐めたが、餓えまでは凌げない。
 やがて、液体も熱を失い、寒さと餓えの中、俺は眠りかけた。
 次に目覚めたら、幸せになりたい。

 だが、俺は眠ることすら許されなかった。
 痛々しいほどの光が、俺の目の前で輝きはじめたのだ。
 それを鬱陶しく思い、何とか動かせた右手でくしゃりと握りつぶした。
 しかしそれは俺の手の中で弾けるように元の形を取り戻すと、そのまま俺の胸に飛びかかってきた。
 そして、皮を破り肉を貫き、俺の中へと潜り込む。
 言い表せぬ激痛が俺を襲った。
 説明しようにも、正直どんな痛みだったか思い出せないし、思い出したくもない。
 ただ、痛かったということ、そして気絶もできなかったということだけは覚えている。
 
 次に気がつくと、俺は外にいた。
 猛吹雪の中、全く寒さを感じることなく、外にいた。
 手には、一枚のカードがあった。

 俺は故郷に帰ったが、親は流行病で亡くなり、あの男は行き先も告げずにどこかに消えてしまったと聞いた。
 俺は叫んだ。
 なぜ、俺がこの様な目に合わねばならぬのか。
 遺跡に踏み入った報いとでも言うのか。
 ならばなぜ、あの男には報いが訪れぬのだ。
 俺は吹雪の中を走り回り、自身を痛め続けてやがて新たな妄執を生み出した。
 この俺が、あの男の報いとなればいいのだ。
 
 やがて俺はあの男に正体を知られないために、醜く歪んだ憤怒の形相を隠すためにマスクを被るようになった。
 そして数年かけてあの男が身分を隠して都会に行き、仕事を成功させたことを、貴族の娘と知り合い恋に落ち、二人で駆け落ちしたということを知った。
 それから更に半年かけてあの男が向かった国を知り、そこで更に一年かけて次にあの男が向かった先を……
 そうして追いかけている内に、とうとうあの男の消息をつかめなくなってしまった。
 もはや復讐など忘れかけ、山奥でひっそりと暮らすようになった俺だったが、ある日思いがけない形であの男の消息を知ることになった。
 山で行き倒れていた男を助けた時、その男が話した数々の話の中で、「海馬コーポレーション」という名が出てきた。
 最初は適当に聞き流していたのだが、そこに出てきた「海馬ヨハン」という名を聞いた瞬間に、忌まわしい記憶が蘇った。
 あの男が俺と親しくしていた時、よく言っていたのだ。
 自分の名前は最下層にありがちな名前で嫌だ。同じありがちな名でも貴族層に多いヨハンと言う名が良かった、と。
 全くの偶然かもしれない。
 そもそも先程も言ったようにハートランドにはよくある名だ。
 だが、男から「海馬ヨハン」なる人物の特徴を聞いて確信した。

 あの男は、血潮のような紅き髪をしていたからだ。

 日本にやってきた俺は、まずはあの男の情報を集め、あの男との接触を試みた。
 どうやら用心棒を探していたらしく、これ幸いと俺はその用心棒として雇われたのだ。
 いずれ自分を殺す人間を雇う。
 これ以上惨めなことがあるだろうか。
 このマスクの下は、きっととんでもない笑みを浮かべていることだろう。
 そして、俺を喰らい、俺を救ったこのカードが教えてくれた。
 あの男は今、死へと向かっているのだと。
 それを聞いた俺は、直接手をかけることを辞めた。
 あの男の死の間際に、目の前であの男が独占しようとしたあの忌まわしきカードを、全て破いてやる。
 あのカードのせいで寿命をすり減らしているようだが、それでもあのカードを俺に奪われるのは嫌に違いない。
 そんなふうに考えていたのだが、結局はこの作戦も破綻することとなる。

 あの男は呪いが解けて延命し、警察に連れられて安全な檻の中へと去っていった。
 あの男を連れて行くパトカーを眺めながら、いっそ暴れてやろうかとも思ったが、山で暮らしていた頃の虚無感が蘇り、俺は日本を去ることにした。

 荷物らしい荷物はあの男のプライドを挫くためだけにいくつも作ったデッキぐらいだったため、俺はそのまま空港へと向かおうと思ったが、あるバーを見つけて足を止める。
 何てことはないバーだったが、俺と同じようにあの男に切り捨てられたラバーソールという男が、このバーによく通っていたらしい。
 ただそれだけの理由でその店に足を踏み入れた。
 だが、これが結果的に俺の運命を変えることになる。

 店で適当に酒を注文し、飲んでいると、横から酔っぱらいに声をかけられる。
「よぉ、兄ちゃん。一人か?」
 俺は無視する。
 関わらない方が得策だ。
「このおれをむしするらよぉ……」
 その酔っぱらいはそろそろ呂律も回らなくなってきているようだ。
「なんれぇ……おれはかいばこーぽれーしょんじきしゃちょ~らろ~」
 勝手に言ってろ、酔っぱらい。
 そう心のなかで切り捨て、会計を済ませるために立ち上がろうとするが、腕を酔っぱらいに掴まれた。
「いい加減に……!?」
「なんらよ、れすあらぁ……おまえもおれをおいてくのかぁ……?」
「る、龍愛様……?」
 酔っぱらいは、あの男の愛娘である、海馬龍愛だった。
 一つ誤解のないように言っておくが、龍愛はまだ未成年であり、飲酒していいはずがないのだ。
「しっかりして下さい……お父上が逮捕された日に娘も補導だなんて、笑えませんよ」
「うるへぇー。おれをおいてこーとしたくれによー」
 駄目だ、すっかり出来上がっている。
 今の龍愛様なら頭の悪いクソガキに絡まれてとんでもないことをされてもおかしくはない状況だ。
 あの男の娘だ。
 放っておいてもいい。
 ……そう思えれば楽なのに、俺にはそんなことはできなかった。
 初めてあった時も、あの男の娘だというのに憎いとは感じなかった。
 それはなぜだろうか。
 考えても答えは出ないので、俺は龍愛の分まで会計を済ませ、一緒に外に出た。
 公園のベンチに寝かせ、酔い覚ましの為に近くの自動販売機でミネラルウォーターを買う。
 その間に頭の悪そうな青と黄色の三人組が龍愛に近づこうとしていたので、全員にビンタをして追い返した。
 俺は龍愛に水を渡し、横に腰掛けて一緒に買ったビールを呑む。
 龍愛はちびちびと水を飲みながら、ちらりとビールを見て呟く。
「己もそっちがいい……」
「何故だ」
「酔わなきゃやってられん……」
「酔えば救われると思えば大間違いだ。ただ、落ちていくだけだ」
 あの奈落へと続く穴のように。
「自分だって自棄酒のくせに……」
「俺はいいんだ。大人だからな」
「己だってもう大人だ」
「大人なら、二十歳まで飲酒をするのはやめろ。そういう我慢ができるのが大人なんだ」
「自棄酒のくせに……」
 酔いが抜け切っていないからか、普段はあまり感じられない子供っぽさを感じる。
「アダーはさ……なんで出て行こうとするんだ?」
 龍愛の問の意味が一瞬分からなかった。
 しかし、俺が海馬コーポレーションを抜けてどこかに去ろうとしていることを言っているのだと気付き、少し考えた。
 そして出した答えは
「いる意味が、なくなったからだ」
 こういったものだった。
 実にシンプルな答えだ。
 そもそも、俺は復讐をするためにあの男に雇われたのだ。
 復讐が破綻し、自分自身も諦めてしまった今、いつまでも海馬コーポレーションにいても仕方がない。
「いる意味がない……か……」
 龍愛は寂しそうに呟いた。
 しかし、すぐに何かを思いついたのか、明るい顔……
 いや、底意地の悪そうなニンマリとした笑みを浮かべてこちらを見た。
「じゃあ、己が『いる意味』になってやる。お前は己の為に、海馬コーポレーションに残れ」
 何を言い出すんだ、この小娘は。
「馬鹿じゃないのか?」
「部下が上司に対して『馬鹿』とはな……だが、酒の席だ。無礼講にしてやろう」
 酒の席というには随分としょぼい飲み会だとか、そもそも部下と上司の間柄になった覚えはないとか、色々と言ってやりたかった。
「……そもそも、お前が社長になれるのか?」
「なれる!!」
 龍愛は何やら手紙を取り出した。
「これは父上殿が書き残したものだが、これによれば次期社長は社内選挙によって決めるらしい。己が出馬すれば、支持率100%間違いなし!!」
 予想以上におめでたい頭のようだ。
「そんなもの、組織票で別の人間が選ばれるに決まっているだろう。それとも何か? お前も大金を積んで自分の派閥でも作り上げるのか?」
「己はあくまでクリーンな選挙を目指す!! 誠意が通じれば、皆も己を認めるはずだろう」
 馬鹿馬鹿しい。
 確かに、あの男に比べれば龍愛の方が「人の上に立つ素質」というもの、所謂「カリスマ」があるように感じられるが、世の中そんなに甘くない。
 これ以上小娘の世迷言を聞くのはうんざりだ。
「そうか。頑張れよ」
「待て、お前にも支持者になって貰わねば困る」
 とうとう、切れてしまった。
 堪忍袋の緒が、切れてしまった。
「いい加減にしろ!! 手前勝手な我儘を押し付けやがって!! 俺はもう、貴様ら親子に振り回されるつもりはない!!」
 堰が壊れてしまえば、後は流れるだけだ。
「俺の人生は貴様の父親に狂わされたのだ!! その足りない脳で理解できるか? あいつさえいなければ俺だってこんなところに……は……」
 言葉に詰まる。
 こんなところにはいなかった。
 それは事実だろう。
 あの男がいなければ、俺はきっと今も奴隷のままだ。
 流行病で親が倒れても、心の枷は外れず、死ぬまで奴隷のままだった。
 あの男がいたから、あの日あの男に裏切られたからこそ、俺の心の枷は外れ親の死と復讐を理由にあの地獄を抜け出せたのだ。
 どちらが幸せだとは思わない。どちらも不幸だ。
 俺は結局、どうあがいても幸せにはなれなかったのだ。
 なぜだか、なぜだか知らぬが。
 涙が止まらなかった。
 あの男に突き飛ばされた時から枯れていた感情が、今溢れだしたのだった。
 何十年ぶりに流す涙は、肌を凍らすように冷たかった。
 すると、いつの間にか正面に立っていた龍愛が俺のマスクを取り去り、細く柔い指で俺の涙を拭っていた。
「そんな顔をしていたんだな……」
「お前は……どうして俺にここまでこだわる……部下なら……他にもいるだろう」
「どうしてだって?」

「お前が一番、傷ついてたからだよ」

 もはや、俺には、何も言い返せなくなっていた。
「己は、父上殿から一生分の愛を受け取った」
 龍愛は俺と同じように、涙を流していた。
「だから己は、皆に愛を与えたい。貰うだけでは……不公平だ」
 なんと我儘なことだろう。
 一人から貰ったものを一人に返すのではなく、一人から貰ったものを与えられるだけの全てに与えるつもりなのだ。
 俺は、彼女の本質を勘違いしていたのかもしれない。
 龍を愛する。龍に愛される。
 龍のカードを大切にしていたあの男にとって、これ以上ないほどの賛美的な名前。
 だが、その本質はこうだ。

 龍が愛する。
 彼女の慈愛を端的に表した名前なのだ。
 それに気づいた時、今まで以上の涙が更に溢れだした。
 もはや、俺には、彼女の愛を拒むだけの温もりは残っていなかった。
 彼女の温もりがなければ、俺はここで凍え死んでしまうだろう。
「龍愛……様……俺は、俺は……」
「何も言うな、デス=アダー。今は泣け。それでいい」

 俺は理解した。
 俺の運命はここに通じていたのだ。
 俺が日本に来たことも、俺があのカードに魅入られたことも、俺があの男に裏切られたことも、俺が生まれてきたことさえも。
 きっと、ここに通じていたのだろう。
 俺は何十年もかけて、仕えるべき主に巡り会えたのだ。
 盲信と笑われてもいい。
 俺が人生をかけて見つけた安寧の場所なのだ。

「龍愛様、社長就任おめでとうございます」
「ふむ、ありがとう」
 社内選挙に出馬した龍愛様は、ギリギリながらも一位を獲得し、無事に社長の地位に着いた。
 彼女の言う「クリーンな選挙」で、だ。
 本当は俺が裏で手回しをしても良かったのだが、それは彼女に対する裏切りに思えた。
 彼女は社長室の椅子に腰掛け、グルグルと回って遊んでいる。威厳ゼロだ。
「……あの、龍愛様。お仕事の方は……」
「ふむ、分からん!!」
 即答しやがった、こいつ。
 あ、いや……即答なさった……
「龍愛様……」
「いやぁ……ここにはよく出入りしてたけど、父上殿が仕事しているところってあんまり見たことないから……」
 それもそうだ。
 あの男は人を使う才能に長けていた。
 自分の仕事を上手く他人に押し付けていたのだろう。
 それで社長にまで上り詰めたのだから大したものだ。反吐が出る。
 龍愛様には、そんな風になって欲しくはない。
「龍愛様、仕事は待っていても来ません。何をすれば分からないのなら、積極的に人に聞くことがよろしいかと」
「では、デス=アダー殿。己は何をすればいい?」
 俺に訊かれてもなぁ……
「私はあくまで、用心棒でしたから。会社の仕事に関しては……」
「……昔は何をやっていたんだ?」
「山で……木こりを……」
「そうか……」
 龍愛様は立ち上がり、社長室から出ていった。
 慌てて追いかけると、廊下を歩いていた社員を捕まえて何やら話をしていた。
「どうだ? 己が手伝えそうな仕事はあるか?」
「いえ、社長の手を煩わせるまでもありません」
「何でもいいんだ。給仕でも」
「……社長は社長の仕事をしてください」
「……社長の仕事ってなんだろうな」
 明らかに迷惑そうな顔をしていた社員がとうとう絶句したので、俺は龍愛様を捕まえ笑いながらフォローする。
「HAHAHA、お戯れが過ぎますぞ、龍愛様。ささ、休憩は終わりです。仕事に戻りましょう」
 社員はこちらを一瞥すると、小声で「お飾りの分際で邪魔すんなよ」と言って去っていった。
 夜道に気をつけろよ、屑が。
 龍愛様を連れて社長室に戻ると、龍愛様は仕事机に座り、何やら作業を始めた。
 ようやく自分の仕事を見つけたのかと手元を覗きこんでみると、鉛筆をナイフで削っていた。
 あ、これ前に見たことある。サラリーマン金太郎だ、これ。
 しかも、不器用。とてつもなく。
 なんというか、ピカソや岡本太郎辺りが喜びそうな鉛筆が製造されている。
 この鉛筆にタイトルをつけるなら俺はこうつける。
「崩壊する精神」
「何だって?」
「いえ、何も」
 龍愛様の機嫌がどんどん悪くなっている。当然だ。
 そんな時、社員の一人が幾つもの書類の束を抱えて社長室に入ってきた。
「すみません!! この書類に目を通してサインをいただけませんか!?」
「おお、いかにも社長っぽい仕事!! 任せろ!!」
 龍愛様は崩壊する精神を手に持ち、その書類の束に目を通し始めた。
「あ、あの……サインを頂くだけなので、目を通す必要はございませんが……」
 社員の言葉にも耳を貸さずに、龍愛様は書類を睨み続けた。
 そして、一部の書類にだけサインをしていく。
「あの、こちらには……」
「そちらにサインをする必要はない。我が社の不利益になるだけだ」
「え!?」
 社員は驚いたように書類を手に取り読み始める。
 そしてその顔は次第に青ざめ、肩が震えはじめた。
「早く仕事をこなすのと、楽に仕事をこなすのとでは別だ。楽をしようとすると、痛い目を見るぞ」
「も、申し訳ございません……」
 俺はその様子を見て、確信した。
 龍愛様は本当にやるべきことが分からなかっただけなのだ。
 あの男の言葉を借りるなら正に有能。
 彼女には、学も才もあるのだ。
 彼女に必要なのは、仕事を教えてくれる人物だけなのだ。
 俺の頭にふと、ある男の顔が浮かんだ。
 あの男の腹心として働き続けた男の顔が。
「……奴さえ戻ってきてくれれば、龍愛様に死角はなくなるだろうな」
「ん、何か言ったか?」
「いえ、何も」
 俺としたことが、甘えた考えをしてしまった。
 今いない人間のことを語っても仕方がない。
(※後にこの男は帰ってくることになるのだが……それはまた別のお話ということで)
 とりあえず俺は、今は龍愛様以上に仕事が無いので龍愛様にコーヒーでも淹れることにしよう……

 俺の誕生は二つあった。
 一つは母の腕に抱かれて。
 もう一つはあの凍土に抱かれて。
 俺は、生まれた。

 だが、もう一度……
 もう一度だけ生まれ変わって良いのなら……

 彼女との出会いを、新たな誕生にしたい。



   あとがき
 これは、tororoさんがデッキ投稿の際に考えて下さったアダーさんの設定を元に、私が動画本編との矛盾ができる限り起きないように書いた番外編です。
 私の中のアダーさんは、実はこんな人でした。
 無口で何考えてるか分かんないけど、頭の中ではお喋りっていうか結構変なこと考えてるイメージです。
 後、「社長の仕事って普通~~とかじゃね?」と言われるかもしれませんが……
 私が社長の仕事なんて分かるわけないじゃないですか。
 つまり、私の中の社長のイメージは他の会社のお偉いさんと食事したり、意味不明な書類に目を通して判を押す程度の認識しかないんです。仕方ないね。
 海馬社長何してたかなって思い出そうとしても、あの人が真面目に仕事してるところってほぼ思い出せないんですよね。

 それでは。
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Secret

No title

二部最終回はまだかなまだかなと期待して来ればまさかの小説

アダーの事については謎だらけだっただけにありがたいストーリーです

ヨハンは下層だか貧民の人とは聞いてましたが、まさかアダーと同じ仲間とは
六竜も詳しいわけではなくとも、見覚えがあるのか・・・・・・
と言うか、ヨハンとアダーが貧民と言うのも恐ろしい世界じゃ
???「力こそが正義! 良い時代になったものだ」
???「と、思うじゃん?」

マルチデッカーの理由、雇われた理由、今も尚働く理由...
等など、遂に明かされる仮面の奥!
確かに、あのドラゴンデッキ相手に一つのデッキでは心許ないかも
バーンで来ることもあれば圧倒的パワー、攻守においても強い
・・・・・・そう考えると良いラスボスだなぁ、ヨハンのデッキ

過酷な生き方をした結果、あんな強くなっちゃったのね・・・・・・
あの人何気に承太郎以外に負けてないし(まだ三戦だけなものの)

はて、青い服と黄色い服を着た悪ガキと言えば、
何処かのバニラをメインとした人達によく似てますなー(棒
作中の小ネタも入ってて、ファン必見ですね

ああうん、出番あるフラグがたってましたし、
余り驚きませんがやっぱりヨハン出番あるのね
その時、アダーは何を思うのか

一枚のカード・・・・・・海王星の暴君?
後嫁さん何者だ
社長の仕事内容が分からない? 安心してください、私もだ
書類に目を通すかお偉いさんと食事するか取引しか思い浮かばないー

いやはや、tororo氏のアダーの愛には、
本当に敬意を表すしかありませんね

自分は東方のように自由にキャラを動かせるようにするため、
設定は深く考えないようにしていたので・・・・・・
まあ、考えると莫大な量になって収集つかなくなるのが本音

設定を深くまで作らず柔軟に、且つ浅く作らない、
そういうところも含めて、tororo氏には敬意を表します
私はいわば一気に100kmだすか止まるかしか出来ない車ですから

一人称視点は今書いてるMUGEN小説もそうなので、参考になります
私のブログに載せてる小説は未だにダメダメです、はい
一応、キャラへの愛は十分以上に注いでますが・・・・・・
唐突ですが、天子&無界はもっと流行っても良いのよ?

PS
フルモン帝は結構作りやすかったんですよね
今まで大抵のデッキは参考にしたのですが、これは数少ない参考が0
※微調整の時には参考にしましたが
リリース要因にトフェニが加わる事で、エクシーズがよりしやすく
手札が他のフルモンより維持しやすいのでトラゴも強い
ライザーガイウスで苦手な魔法罠も除去しやすかったり
挙リュージョンスナッチ&ザボルグでティラスかヴォルカも登場可能

それでシンクロも組み込め、ドリル・ウォリアー&リリース要因があると、
ライザーやガイウスを使い回す事で地獄絵図
リリース要因が光か闇に偏るのでカオスも採用可能
とまあ、フルモンでも結構優秀かと


PS2
先日のジョジョの事ですが、技名とかではなく、
技のモーションは何巻のどこのポーズ参考? と言うやつなんです
後億泰のチリペッパー戦全然違ってました、はい
六部は話しの内容しか覚えてないなんてゲフンゲフン


PS3
ヴェルズデッキかっちゃいました。さらば即売会のでウッハウハの夢(
サモンリミッターと言うアンチシナジーなカードもありますが、
サモプリ クリッター ダムド ブラホ デモチェ等優秀なカード入手プラス
色んな物がついてきたのでありがたいかいものでもありますね
但しオピオン、てめーの初期傷はダメだ(左上が擦れてて涙目
後、セイクリッドに蘇生なんてなかった(転生)
まあなくてもセイクリッドの方が良いでしょうね、パーツとしてもデッキとしても
ヴェルズはランク4特化、セイクリッドはランクが色々

PS4
イルミネーターも紋章獣だと活躍出来る事が判明
レオやアバコーン落としながらデッキ圧縮、と考えれば悪くないですからね
エアレーがいる事で出しやすさはあるでしょうし

最後
ディ落ちの大百科が作られてるぞー!!










但し、別の意味だけどね!!

それでは! 文章を短くする考えを止めた結果がコレだよ!!

No title

ユウ☆キ☆オウ・アナザーストーリー!?
と初見でみてワクワクして読んでみたらアダーの話だった。
ああ、これ「アナザーストーリー」じゃなくて「アダーストーリー」だったのね、マジで見間違えてたww

無駄に設定を考える事が好きな自分の考えた設定を昇華していただきありがとうございます。

自分が考えたアダーの設定は…確か…(考えた設定描いてたメモ消したのでうろ覚え
1.ヨハンとは親しい冒険家仲間、同い年
2.ヨハンと同じ女性を好きになったのでとある遺跡で一騎打ちのデュエル
3.アダーが勝ったがヨハンに蹴落とされて光の届かない崖下に転落。
4.死にかけた所にネプチューンと契約を結んで復活、ついでにマッチョ化
5.数年かけて崖をよじ登って遺跡から脱出
6.復讐の為に半裸マスクになって姿を変える
7.海馬コーポレーションの事を知り用心棒になり近づく…

こんなんでしたね。



1部と2部を繋ぐストーリーですねぇ。ほんとラバソ戻ってきてよかったね。何気なく不良トリオが蹴散らされてるww うん、お前らじゃ勝てない。

六龍の封印されてた遺跡に偶然ネプチューンがあったのは……
うん、きっとあれだ。
ヨハンが盗んだ後に遺跡に入ったプラネットシリーズ持ってた冒険者が六龍がなくてがっくししてたら、他力本願竜を落とした不動博士の如くうっかりネプチューンだけを偶然落としてそれが偶然にもアダーの手に落ちたんだよ!
偶然が重なるそれは偶然ではなく運命と呼ぶ―――

…と今考え付いた。
そしてネプチューンがデスアダーを生かしてる?って事は……
デスアダーの手からネプチューンが奪われたら…いやよそう、俺の考えでみんなを(ry

2部最終回?「ユウキVSDIO?」を楽しみにしてます。
ではノシ


PS1
小説の場合見たくない人だとブログみるのに下におろすのが手間になりそうなので
「続きはクリックして~~」云々な折りたたみをした方が見た目的にもいいと思います。

PS2
新カード到来で色々と新しいデッキが思いついたり。
新カードで投稿済みデッキを調整したい気分。てか投稿したデッキを描いてたメモ帳を(ry
「進撃の帝王」……ハードアームドラゴンぇ……アダーのコアキ型やフォーチュンレディ型に普通に入りそうだから困る。

PS3
雄輝氏サンクス。

そしてディ落ちwwwww 確かに意味が違う、いやあってるんだろうけどwwww

No title

雄輝さん。
年末で多忙な時期なのでもう少し時間がかかると思います。

まぁ、ヨハンやアダーにも子供の頃があったのですから、支配されてもおかしくはないですよ。
生まれはどうにもできませんし。

ヨハンのデッキは、ファンデッキではありますが確かにラスボスしてるんですよね。
DIOはDIOで、彼とはまた違ったラスボスっぽいデッキになっていますよ。まぁ、一度デュエルしたからコンセプトとかは既に判明してますが。

むしろ、三戦もしてる中で主人公勢以外には負けていないという……

ええ、彼らで合っていますよ。
夜遊びダメ、ぜったい。

(※後にこの男は帰ってくることになるのだが……それはまた別のお話ということで)って部分でしたら、ヨハンじゃなくて、ラバーソールさんのことですよ。
事前に「あの男(ヨハン)の腹心として働き続けた男」って書いてますので。
それ以外だと……別にヨハン復活フラグ的なものはないと思いますが。

カードはそれで合っています。
嫁さんはちゃんと考えてますよ。グリゼラ以外で!!
そう考えると、社長って普段なにしてるんでしょうね?
知り合いに社長がいれば話が聞けるのですが……

むしろ、どのキャラにも愛が詰まっていすぎて、ストーリー内で使うために設定を大幅に変えたり削ったりしなくちゃいけないことが多々あるんですよね……
私達としては、できるだけ皆さんの考えて下さった設定などを活かしたいのですが、ストーリーも変更したくないので難しいんです……
動画投稿をしてくださっている皆さん、申し訳ありません……

雄輝さんの小説、読んでいますよ!!
後、私の小説はまだ全然ダメですし、そういう勉強とかもしていない我流なので、あまり参考にしない方がいいかもしれませんよ?
堂々と「参考にしてください!!」って言える作品が書けるようにがんばります。

PS
結構多彩な戦法が取れそうで面白いですね。
そう言えば、トフェニさんがいましたね。
トフェニさんマジぱない……

PS2
私も場面のことを言っているつもりだったんですが……
アレ、台詞じゃなくて、オールスターバトルの技名です。
すみません、伝わりづらくて。

PS3
こっちは前に話したように、コスモブレイザー一箱買いましたよ!!
炎星作ろうにも、ソウコ0 「天キ」1 リュウシシン1……
はは……
ガガガクラークもシャイニート・マジシャンも当たらない……ちくしょう……

PS4
でも、イルミネーターが出せる状況だとまずゲノム・ヘリターかコート・オブ・アームズを出すという……イルミネーターさん……

そして、ディ落ちの大百科は知ってたぞ雄輝さんンー!!
これからは差別化するために「ディオけない」と呼びます。


tororoさん。
その見間違い、我が計画通り!!

いえいえ、ほとんど変えちゃったので別物になってますので……

2と5は素で忘れてました……
数年かけてない……不思議な力でほぼ一瞬……

三対一のデュエルでもアダーさんなら勝ちそうですしね……ビンタで済んで良かったね、不良トリオ。

ネプチューンについては、下手に具体的な設定を練るよりも、このまま謎にするか後々別の設定に組み込むかのどっちかにするつもりです。

よし、どうなるか試してみよう(まさに外道)

PS1
……長いこと使ってなかったので、その機能忘れてました。
ちょっと、修正してそうします。

PS2
新カテゴリとか出ると、誰に使わせようかすごく考えちゃいますよね。
私もそういうタイプなので、後々投稿デッキと被ることがまたあるかと……

PS3
まぁ、ディオ+出落ち=ディ落ちってのは「ディオけない」の方も同じですからね、実際。
とりあえず、早くディオけないも投稿して、そこら辺のタグのこともネタにしないといけませんね。


それでは。
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マスクド

Author:マスクド
すっかりデュエル脳に……

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